質量分析イオン化法|基本原理と主要な手法6種類を詳しく解説

質量分析イオン化法|基本原理と主要な手法6種類を詳しく解説

記事作成日

2023-07-21

最終更新日

2024-06-18

イオン化法とは?質量分析における目的と原理

質量分析は、気相イオンの質量(実際に測定するのはイオンのm/z)を分析する機器分析法です。質量分析したい試料があるとき、その試料を何らかの方法で気相イオンに変換する必要があります。イオン化法とは、質量分析を行うために試料をイオン化する手法を指します。試料がイオン化することで、電場や磁場による操作が可能となり、質量分析が行えるようになります。試料の種類や解析目的により適したイオン化法を選択することが、精度良く質量分析を行うための重要な要素です。

▼浜松医科大学発ベンチャー「株式会社プレッパーズ」が開発した質量分析関連装置はこちら
ソルナックチューブ
ソルナックチューブ自動切換え装置

▼プレッパーズへの質量分析のご依頼・ご相談はこちら
無料で問い合わせる

質量分析イオン化に主に用いられる6つの手法

質量分析におけるイオン化の手法は、試料の化学的、物理的な性質に応じて多種多様です。本記事ではその中でも特に用いられる6つの主要なイオン化手法について解説します。

  • 電子イオン化法(EI)
  • 化学イオン化法(CI)
  • 高速原子衝突法(FAB)
  • エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
  • 大気圧化学イオン化法(APCI)
  • マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)

電子イオン化法(EI)-熱に対して安定な揮発性低分子に適する

電子イオン化法(EI)は、気化した分子に高エネルギーの電子線を照射する事によって分子をイオン化する手法です。

分子量1000程度までの低分子で、熱に対して安定で揮発性を有する分子に適しており、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)に汎用されるイオン化法です。

分子から電子が1つ脱離したイオン(分子イオン、M+・(←+・は上付き))が生成する他、多くの分子で結合が開裂したフラグメントイオンが生成します。

EIは、最も伝統的且つ現在でも汎用されているイオン化法で、古くから多数のマススペクトルが蓄積され、マススペクトルデータベースとして、未知試料の化合物推定などに活用されています。

化学イオン化法(CI)-EIよりもフラグメントイオンが生成しにくいイオン化法

化学イオン化法(CI)は、試料分子が試薬イオンと反応してイオン化する方法です。

試料分子は、試薬イオンとのプロトン移動によって、主として[M+H]+(←+は上付き)イオンを生成します。試薬イオンは、メタン、イソブタン、アンモニアなどをイオン化して生成させます。

EIと同様に揮発性物質のイオン化に適しており、GC/MSに汎用されますが、フラグメンテーション(フラグメントイオンが生成すること)はEIよりも起こりにくいという特徴があります。

高速原子衝撃法(FAB)-熱に不安定な分子のイオン化が可能

高速原子衝突法(FAB)は、キセノンなどの希ガスを高エネルギー状態にしたビームを用いて試料分子をイオン化する方法です。熱に不安定な化合物にも用いることができます。

イオン化のためにマトリックス(イオン化助剤)が必要で、正イオン検出では、主として[M+H]+(←+は上付き)イオンが生成されます。主にセクタータイプの質量分析計で利用可能であり、最近では余り使われなくなって来ています。後述するESIやAPCIに比べると、[M+H]+(←+は上付き)の他の付加イオンが生成し難いために、分子質量の確認が容易であるという特長があります。

エレクトロスプレーイオン化法(ESI)-熱に不安定な高極性化合物や、高分子化合物に適する

エレクトロスプレーイオン化法(ESI)は、試料を電界中で帯電液滴化し、帯電液滴からイオンを生成する手法です。

フラグメンテーションが起こりにくく、医薬品やその代謝物、天然物成分など比較的高極性で熱に不安定な化合物や、タンパク質やペプチドなどの高分子化合物の分析に適しています。高分子化合物では、分子にプロトンが複数付加した多価イオンが生成します。その為、測定可能なm/z範囲の上限が狭い質量分析計においても、高分子化合物を測定出来るという利点があります。

液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)に汎用されるイオン化法であり、正イオン検出では、[M+H]+, [M+NH4]+, [M+Na]+などの付加イオンが生成されます。

大気圧化学イオン化法(APCI)-低~中極性で熱に比較的安定な化合物のイオン化に適する

大気圧化学イオン化法(APCI)は、大気圧中のコロナ放電によってイオンと分子の衝突及び反応(イオン分子反応)を起こし、これを利用することで試料をイオン化します。ESIに次いで、LC/MSに用いられています。ESIは試料を液相でイオン化するのに対し、APCIは気相でイオン化します。

比較的極性が低い化合物に適しているため、脂溶性の高い化合物や、溶液中でイオン化しない化合物の分析に用いられます。反対に、試料が熱に不安定である場合は、APCIには不向きとなります。

マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)-試料が極微量な場合や、純度が低い場合でも測定できる

マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)は、レーザー照射によって試料をイオン化する手法です。

ESIと同様に高分子化合物の分析に適する上に、試料が極微量である場合や、試料の純度が高くない場合でも測定が可能です。有機分子をターゲットとした質量分析イメージングに汎用されています。

イオン化のためにマトリックス(イオン化助剤)が必要で、正イオン検出では、主として[M+H]+イオンが生成されます。生成するイオンは主に1価であり、高分子化合物を測定する場合、測定可能なm/z範囲の上限が広い質量分析計を用いる必要があります。その為、MALDIは飛行時間質量分析計(TOF-MS)と組み合わされる事が多いイオン化法です。

▼浜松医科大学発ベンチャー「株式会社プレッパーズ」が開発した質量分析関連装置はこちら
ソルナックチューブ
ソルナックチューブ自動切換え装置

▼プレッパーズへの質量分析のご依頼・ご相談はこちら
無料で問い合わせる

▼関連記事
その他、質量分析全般についての解説はこちら

まとめ

以上が、質量分析における主要なイオン化法の概要です。これらは試料の性質や解析目的によって適切に選択・利用することが重要となります。我々プレッパーズでは、これらのイオン化法を理解し、適切に活用することで、より高品質なデータを提供してまいります。

その他の記事

記事一覧はこちら