質量分析計|基礎知識や原理、応用例を専門家が簡単解説

質量分析計|基礎知識や原理、応用例を専門家が簡単解説

記事作成日

2023-05-26

最終更新日

2023-11-17

医薬品開発や臨床研究、環境分析など幅広い分野で活用されている「質量分析」。サイエンス領域において、必要不可欠といえる技術です。

質量分析では、分析する物質や分析の目的に応じてさまざまな装置を使い分ける必要があります。そしてその原理を正しく理解していないと、適正な結果を得ることができず、研究・開発が滞ってしまうことになりかねません。

当記事では、そんな質量分析装置(質量分析計)について、基本的な原理や、各装置の種類・特性を詳しく解説します。そして、昨今の市場の動向や技術発展に伴う、質量分析の未来の展望についてもご紹介します。

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質量分析装置とは

まず、「質量分析装置とはそもそも何なのか」そして「この装置の重要性や用途はどのようなものなのか」についてご説明します。

質量分析装置とは、分子や原子をイオン化してその質量(実際に測定するのはm/z)やイオン量(イオンを検出する時の電流量)を解析することで、試料に含まれている物質の定性・定量を行う装置全般を指します。物質はすべて、数多くの原子や分子から構成されています。質量分析装置では、それを原子・分子レベルで直接的に解析するため、非常に正確に試料を分析できるのが大きな特徴です。

質量分析装置の基本原理

続いて、質量分析装置を用いた分析の原理について解説します。

原理の概要

質量分析装置は、基本的には大きく以下の4つの部位に分けることができ、これらを適切に組み合わせて分析を行なっています。

  1. イオン源:試料中の原子や分子をイオン化する
  2. 質量分析部:高度な真空中で、電磁気的に各イオンを質量(m/z)に応じて分離する
  3. 検出部:質量分析部で分離したイオンを検出して電流量に変換する
  4. データ処理システム:質量分析計や周辺装置(液体クロマトグラフ)などの制御、測定、データ処理を行い定性や定量の解析を行う

各プロセスについて、詳細にご説明します。

装置の種類とその分析プロセス

【1.イオン源:試料中の原子や分子をイオン化する】

イオン源では、試料中の原子や分子を気体状のイオンにし、電磁気的に分離するための準備をします。

試料の物理化学的性質や熱に対する安定性・分子量などの特性に応じて、以下のようなさまざまな手法でイオン化します。ここで挙げたのはほんの一例で、現在市販装置に搭載されているだけでも、10種類以上のイオン化法が用いられています。

  • 電子イオン化法(EI):分子量1000程度までの低分子で、熱に対して安定で揮発性を有する分子に適する。ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)に汎用されるイオン化法である。分子から電子が1つ脱離したイオン(分子イオン、M+・(←+・は上付き))が生成する他、多くの分子で結合が開裂したフラグメントイオンが生成する。
  • 化学イオン化法(CI):EIと同様の物質のイオン化に適する。試料分子は、試薬イオンとのプロトン移動によって、主として[M+H]+(←+は上付き)イオンを生成する。フラグメンテーションはEIよりも起こりにくい。EI同様、GC/MSに汎用される。
  • 高速電子衝突法(FAB):熱に不安定な化合物にも用いることができる。イオン化のためにマトリックス(イオン化助剤)が必要で、正イオン検出では、主として[M+H]+(←+は上付き)イオンが生成される。
  • エレクトロスプレーイオン化法(ESI):フラグメンテーションが起こりにくく、医薬品やその代謝物、天然物成分など比較的高極性で熱に不安定な化合物や、タンパク質やペプチドなどの高分子化合物の分析に適する。液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)に汎用されるイオン化法である。正イオン検出では、[M+H]+, [M+NH4]+, [M+Na]+などの付加イオンが生成される。
  • マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI):ESIと同様に高分子化合物の分析に適する上に、試料が極微量である場合や、試料の純度が高くない場合でも測定が可能。有機分子をターゲットとした質量分析イメージングに汎用されている。イオン化のためにマトリックス(イオン化助剤)が必要で、正イオン検出では、主として[M+H]+イオンが生成される。

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【2.質量分析部:高度な真空中で、電磁気的に各イオンを分離する】

質量分析部では、イオン源で生成したイオンを、その質量(m/z)に応じて、電磁気的な作用によって分離します。

質量分析部について解説する前に、質量とm/zの違いについて触れてみたいと思います。

質量分析によって得られる代表的なデータはマススペクトルであり、横軸にm/z・縦軸にイオンの強度をとった二次元チャートです。

我々は、マススペクトル上に観測されるイオンのm/zとイオンの種類から、イオン化する前の分子の質量を知る事が出来ます。m/zのmはイオンの質量(正確には質量を統一原子質量単位で割った値)、zはイオンの電荷数です。イタリック体で表記する事が国際的に決まっています。

zが1の時つまり1価イオンでは、イオンのm/z値は質量に等しくなります。上述したエレクトロスプレーイオン化では、タンパク質などの生体高分子を測定すると、多価イオンが生成するためm/z値=質量とはならず、マススペクトルデータから直接元の分子の質量情報を得る事は出来ないので、注意が必要です。

質量分析部には様々なタイプがありますが、ここでは特に伝統的で現在でもよく用いられる、以下の3つをご紹介します。基本的にはどのタイプも「イオンの質量(m/z)の違い」を利用して分離しています。

①磁場偏向型
②四重極型(Q)
③飛行時間型(TOF)

①磁場偏向型

磁場偏向型のイメージ図
引用:https://yaku-tik.com/yakugaku/yk-4-5-3/

イオンが磁場中を通るとき、磁場から受ける力によってその軌道が曲がることを利用して分離を行います。

質量(m/z)が大きいイオンほど曲がりが小さく、逆に質量(m/z)が小さいイオンほど曲がりが大きくなります。最も基本的な質量分析部なので、ここで紹介はしていますが、現在市場で稼働しているのはダイオキシン分析専用装置としての用途が殆どで、台数としては非常に少なくなっています。

②四重極型(Q)

四重極型のイメージ図
引用:https://yaku-tik.com/yakugaku/yk-4-5-3/

平行に並べ、一定の電圧をかけた4本の電極の中にイオンを通し、分離を行います。

電圧に応じて、四重極内を通過できるイオンの質量(m/z)は異なるため、電圧を次々に変化することで、質量(m/z)別にイオンを分離することができます。

四重極型の質量分析計は、Quadrupole Mass Spectrometerの頭文字をとって「QMS」と呼ばれています。小型で安価という特長があります。定量分析には、四重極を3つ直列に配置した、三連四重極型が用いられています。

③飛行時間型(TOF)

飛行時間型のイメージ図
引用:https://yaku-tik.com/yakugaku/yk-4-5-3/

イオンに一定の電圧をかけて飛ばし、各イオンが検出器に到達するまでの時間で質量(m/z)を測定することができます。

質量(m/z)の小さなイオンほど素早く検出器に到達し、質量(m/z)の大きなイオンほど、遅れて検出器に到達します。

飛行時間型の質量分析計は、Time-of-Flight Mass Spectrometerの頭文字をとって「TOF-MS」とも呼ばれます。高質量分解能が特長で、実際の市販装置としては、前段に四重極を配置した四重極-飛行時間質量分析計が一般的です。

【3.検出部:分離したイオンそれぞれの質量と相対検出強度を測定し、物質の種類や構成を同定・定量する】

検出部では、イオンを検出して電流量に変換します。その電流量が、後述するマススペクトルの縦軸強度に対応します。

【4.データ処理システム:分離したイオンそれぞれの質量と相対検出強度を測定し、物質の種類や構成を同定・定量する】

データ処理システムでは、質量分析部で分離したイオンの質量(m/z)を横軸、イオンの相対的な検出強度を縦軸にとり、マススペクトルと呼ばれる二次元チャートを作成します。

このマススペクトルを読み解くことにより、試料に含まれる物質の同定・定量や、未知の物質の構造推定などを行う事が可能となります。

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質量分析手法の種類とその特性

上記のさまざまな装置を組み合わせることで、質量分析は解析手法は多岐に渡ります。本記事では、当社プレッパーズが特に得意とする2つの分析手法をご紹介します。

主要な分析手法とその特性

当記事で紹介する質量分析手法は、以下の2つです。

  • イメージング質量分析
  • 液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)

各手法の利点と適性

【イメージング質量分析】

サクラの花びらをイメージング質量分析にかけた例。色の違いは、分子分布の度合いを示しています。

イメージング質量分析は、サンプルにおける各測定点の分子情報を空間情報と合わせて取得し、網羅的な分子マップの情報を得ることができる手法です。

生体試料から、金属・フィルムなど材料系のサンプルに至るまで、多様な種類の試料を分析することができます。

この手法はラベルフリー(色素や同位体による標識化が不要であること)で行うため、従来 化合物の分布解析のために行われてきたオートラジオグラフィよりも安価で迅速に、なおかつ未変化体と複数の代謝物ごとの臓器/組織内分布を解析することが可能になりました。

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【液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)】

引用:東レリサーチセンター

液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)は、溶液状の混合物試料を、液体クロマトグラフィー(LC)によって成分分離し、順次マススペクトルを得る事が可能な分析法です。

他の機器分析法に比べて、高感度かつ高選択性であることが特長で、複雑な混合試料中の微量成分の定性分析、定量分析に威力を発揮します。

血中の医薬品濃度測定、医薬品の代謝物分析、抗体医薬品分析、疾病に関わるマーカー探索研究、環境汚染物質の分析、有機材料分析、食品分析など様々な分野で用いられています。

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業界別 質量分析装置の活用事例

先述のようなさまざまな技術を用いて、あらゆる分野で質量分析は応用されています。ここでは、「科学分野全般」「医療分野」「環境分析」の3つの領域における応用例をご紹介します。

科学分野全般での応用

野生型マウスの腎臓および脳におけるイミプラミン、クロロキンおよびそれらの代謝物の迅速マッピングに質量分析を用いた例。
詳細はこちら

化学・生物・宇宙・物理・考古学など、あらゆる科学領域で質量分析が活用されています。

上記に挙げた各領域での具体的な応用例は、以下の通りです。

  • 化学:化合物の同定や化学反応の研究
  • 生物:タンパク質やペプチド、その他生体内分子などの解析
  • 宇宙:惑星の探査
  • 物理:装置開発や、半導体の研究、ナノサイエンス
  • 考古学:炭素14(C-14)を用いた年代測定

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医学分野での応用

特に医学・医療の分野においても、質量分析は大いに活用されています。

例えば、

  • 法医学領域:放火や爆発物、薬物乱用の調査
  • 臨床領域:臨床試験や診断試験、疾病のスクリーニング

などに応用されています。

▼技術情報(プレスリリース)
プレッパーズの研究活動の成果はこちら

環境分析での応用

さらに、私たちの生活環境の分析においても、質量分析技術は応用されています。

具体的には、

  • 飲料水の安全性の確認
  • 農薬のスクリーニングおよび定量
  • 土壌汚染の評価

などで活用され、環境の安全性の確認や維持、改善に役立てられています。

当社で開発した質量分析装置

このように多種多様な領域で活用される質量分析装置ですが、まだまだ技術的な発展余地は大きく、より質の高い分析をするために日々さまざまな研究がなされています。

当社プレッパーズでも、

  • ソルナックチューブ
  • ソルナックチューブ自動切換え装置

という2つの製品を独自に開発し、販売しております。

ソルナックチューブ

ソルナックチューブは、塩をイオン交換樹脂に吸着させることで除去する脱塩チューブのことです。

ソルナックチューブを用いることにより、リン酸塩緩衝液を始めとする不揮発性の緩衝液を移動相溶媒として、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を行うことが可能になります。特に、

  • リン酸塩緩衝液でのLC/MS測定
  • トリフルオロ酢酸を移動相に使用したLC/MS測定
  • 溶液中にNa+やK+が含まれる際のESIイオン化

などの用途に対して、効果を発揮します。

安価かつ使い捨てで利用することができ、この点においてもご好評をいただいております。

▼ソルナックチューブの詳細はこちら
ソルナックチューブ

ソルナックチューブ自動切換え装置

上記のような用途で効果を発揮するソルナックチューブですが、それ単体では、移動相中のリン酸塩を除去できる時間はおおむね10分〜15分間であるため、連続的な分析に対応できないという課題がありました。

‍そこで開発したのが、ソルナックチューブ自動切換え装置です。

ソルナックチューブと合わせてこの装置を利用することにより、ソルナックチューブを100本まで自動で切換えて、連続LC/MS分析を行うことができるようになります。

自動切換え装置では、チューブの両端に新規開発したノズルを押し付けることで、約5MPaの耐圧を確保します。
これにより、カラムで分離された成分がチューブおよび装置の内部容量によって拡散することを防ぎながら、連続的に測定を実施することを可能としました。

ソルナックチューブと自動切換え装置を合わせて活用することで、感度が高く、複雑な混合試料の分析にも適したLC/MSを、従来以上に幅広い領域で活用できるようになります。

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ソルナックチューブ自動切換え装置

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質量分析装置の未来への展望

技術トレンドと市場ニーズ

質量分析の市場は、コロナ禍によるバイオテクノロジーや製薬業界からの需要高騰などの影響を受け、昨今さらなる拡大を見せています。

Mordor Intelligenceの調査によれば、質量分析市場は2020年に49億7500万米ドルの市場規模を記録し、2026年までに77億8000万米ドルに達すると予想されています。

特に、薬品中の添加剤分析等にも活用されるLC/MS分野も、質量分析の市場全体の拡大に伴い、さらに需要が高まることが予想されています。

プレッパーズの目指す方向性

こうした市場の動向を受け、私たち株式会社プレッパーズも、質量分析技術を通じて社会貢献に寄与すべく活動しています。

浜松医科大学発のベンチャーとして、特に医療・健康という領域において独自の価値を提供し、いずれはよりヒトに直結した技術・製品を世に出していければと考えております。

まとめ

本記事では、質量分析装置の基本的な知識や市場の動向について、解説してきました。

当社プレッパーズでは、質量分析のご依頼や、ソルナックチューブ等の装置導入のご相談を随時承っております。

質量分析に関するお悩み事がある皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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